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大阪家庭裁判所 昭和51年(家)3315号 審判 1977年3月31日

申立人 田中光恵(仮名)

相手方 田中勝(仮名)

主文

相手方は、申立人に対し、昭和五二年四月一日以降、申立人と相手方との別居解消又は婚姻解消に至るまで、毎月金二一万円を申立人住所に持参もしくは送金して支払え。

理由

(1)  本件申立ての要旨は、「相手方は、申立人に対して、申立人及び長女涼子並びに長男英介の生活費として、毎月金三〇万円を支払え。」というのである。

(2)  本件記録及び本件関連事件(昭和五〇年((家イ))第二〇〇九号婚姻費用分担請求調停事件及び昭和五〇年((家イ))第四六七号夫婦関係調整調停事件)の記録を総合すると、次の事実が認められる。

<1>  申立人と相手方とは、昭和三一年三月一五日に婚姻し、昭和三二年六月二八日に長女涼子、昭和三四年一〇月五日に長男英介を儲けた。

<2>  その後、相手方は昭和三六年七月に○○試験に合格し、昭和三九年四月に○○○○○会に○○○登録をし、(途中二年間余りの○○○登録取り消し期間あり。)現在○○市○区○町○-○○××ビル八階に事務所を設けて○○○として稼働中である。

<3>  昭和四二年七月頃、相手方は現在の当事者居住の宅地・家屋を代金八五〇万円で買い受け、家族四名が同家屋に移り住んだのであるが、その当時から申立人と相手方との間には円満を欠く状態にあり、相手方は帰宅しない日が多くなつた。又、相手方が偶々帰宅することがあつても、申立人と相手方とは寝食を共にすることもなく、同一家屋を住所としながらも、現在では両名は実質的には別居状態に至つている。

<4>  申立人は、昭和五〇年二月一七日当裁判所に対し、相手方との離婚を求める調停申立をし、同年四月三日以降昭和五一年八月三〇日までの間前後一四回に亘つて調停期日が開かれたが、両者間に財産分与額等をめぐつて合意が出来ず、同日右調停は不成立に帰し、申立人は大阪地方裁判所に対して相手方との離婚を求める訴訟を提起し、同庁昭和五一年(タ)第三三三号事件として係属中であるが、申立人はその間昭和五〇年六月一九日に当庁に対して婚姻費用分担を求める調停の申立をし、同事件は昭和五一年一二月一七日までの間前後一三回(一部は離婚調停と併合して。)に亘つて調停期日が開かれたが、同日、当事者間に合意の成立見込みがないものとして、不成立に帰し同日審判に移行した。

<5>  申立人は、現在肩書住所地において、長女及び長男と共に同居し、相手方から任意に支給されている月額金二一万円で生計を樹てている。一方、相手方は、申立人と同一家屋に住所を有しながら、申立人とは寝食を全く別にし、○○○として稼働し、その昭和五〇年度の課税対象となる総所得は約金五〇四万円で、これを基準とした所得税は金二一万四、六〇〇円、事業税は金一五万二、〇〇〇円、市、府民税は金三七万七、九〇〇円、固定資産税・都市計画税金一一万五、六六〇円で税金合計は金八六万〇、一六〇円で昭和五一年度の国民健康保険料は金一五万円である。

<6>  なお当事者が居住中の家屋及びその敷地を相手方は昭和四二年七月頃代金八五〇万円で買受け、××××××から、右代金額を含めた金一、一〇〇万円を上記不動産を担保に利息は年〇・一〇八七五の割合で借り受けている。右の負債の内金八五〇万円は、申立人を含めた家族全員の居住家屋のための支出である。

そこでその額を計算すると、

8,500,000円×0.10875 ≒ 924,375円……年間利息及び上記債権者である××××××が発行した残高証明書記載の昭和五二年一月二〇日現在金七二〇万円から計算する元本債務弁済額

11,000,000円-7,200,000円 = 3,800,000円

金三八〇万円の右家屋代金に相当する割合

3,800,000円×(8,500,000/11,000,000) ≒ 2,936,363円

金二九三万六、三六三円の年間平均額

2,936,363円÷9(7/12) ≒ 306,403円

金三〇万六、四〇三円となるので一年間の元金債務と利息の弁済合計は

306,403円+924,375円 = 1,230,778円

金一二三万〇、七七八円となる。

(3)  以上認定の各事実によれば、申立人と相手方との間には依然婚姻関係が継続しているのであるから、相手方としては、申立人及び同人と同居中の未成年の子である長女涼子・長男英介のために、同人等が相手方の収入に応じた相当程度の生活を維持し得るに必要な生活費を支給する義務があること明らかである。

そこでその支給すべき金額について考察する。

<1>  現況は、申立人は無職無収入であり、長女涼子・長男英介は共に学生であつて無収入である。

<2>  相手方の昭和五〇年度の収入及びそれに要する支出額は前記のとおり

5,040,000円-(860,160円+150,000円) = 4,029,840円

金四〇二万九、八四〇円であるところ相手方の昭和五一年度分収支金額についてはこれを認めるに足りる資料が存しない。大阪府企画部統計課の統計によると、大阪府における消費者物価指数及びこれから推計される収入額の増減については、昭和五〇年度を一○○とした場合、昭和五一年度は一〇九・五であり、昭和五二年二月は一一五であるので、この指数の変動を本件に当てはめて考えると、相手方の昭和五二年二月の婚姻費用分担額を算出する基準額は

4,029,840円×1.15 ≒ 4,634,316円

金四六三万四、三一六円となるところ、前記××××××への支払金金一二三万〇、七七八円を引くと

4,634,316円-1,230,778円 = 3,403,538円

金三四〇万三、五三八円になるのでこの金額を根拠に、いわゆる労研(労働科学研究所)生活費方式(都市部用)により計算すると、消費単位は相手方は一〇〇、申立人は八〇、長女涼子は一〇〇、長男英介は九五であり、その他にそれぞれ実質的に独立して世帯を営む申立人及び相手方にはそれぞれ上記以外に二〇宛の指数を加えて計算すると、

3,403,538円×(((80+20)+100+95)/((100+20)+(80+20)+100+95)) ≒ 2,419,382円

月額にすると

2,419,382円÷12 ≒ 201,615円

金二〇万一、六一五円となる。

<3>  なお相手方は、自分の母をも扶養していることが推認されるが、母津山きく(明治三七年一二月五日生。)と相手方とは別居しており、且つ同女には相手方以外にも子が生存していることが認められるので本件婚姻費用額算定に際して考慮するのは相当でない。又、相手方には上記××××××に対する債務以外にも○○○○○○及び△△△△△△等に負債があることが認められるけれども、それ等はいずれも相手方と申立人とが実質的に別居した後に生じた負債であるし、又負債の内容からみて職業上の経費に該当するとみて差支えないので本件算定上別個に参酌しない。

<4>  又、申立人は、相手方には、上記以外に多額の収入がある旨述べているが、それを正当に認めることが出来る資料はない。

(4)  以上認定のとおりであるところ、相手方は申立人に現在まで任意に月額金二一万円宛を交付していることをも併せ考えると、相手方は申立人に対して、昭和五二年四月一日以降申立人と相手方との別居解消又は婚姻解消に至るまで毎月金二一万円を申立人住所に持参もしくは送金して支払うべき義務があるというべきである。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 鈴木清子)

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